朝日新聞 かむ力とバランス

マウスピースに関する朝日新聞の記事紹介

歯をグッ 脳が骨格筋動かす

まもなく開催する「ソチ五輪」。
チームジャパンの中に「はかむ科学」によるサポートを受けている選手がいる。
かみ合わせを整えることで、身体のバランスが向上すると言う。
そのメカニズムとはー。

ソチ五輪では、フリースタイルスキー・モーグルの遠藤尚、西信幸、星野純子の各選手がマウスピースをつけて挑むという。
「2006年のトリノ大会以降、モーグルの代表選手の約半数がつけている。よい結果が出ていることも事実」。全日本スキー連盟の林辰男・フリースタイル部長はこう話す。
導入のきっかけは怪我の予防だった
その前年の05年代表チームの一人が海外合宿中、脳震盪を起こした。診察した外国人医師に聞かれた。「マウスピースはつけていたのか?」
高校ラグビーでも外傷予防のため装着を義務付けている。
かみ合わせがよくなり、頭に衝撃を受ける際、歯を強く食いしばることができる。
その結果、首の筋肉の活動が高まり頭部が安定する。
脳震盪の予防と軽減につながるという可能性を示したデータがある。
効果は外傷予防だけではない。「噛む力が均一になるよう調整したマウスピースで、パフォーマンスが向上する可能性がある」。
日本オリンピック委員会強化スタッフで、スポーツドクターの 石上恵一・東京歯科大教授(スポーツ歯学)は説明する。
歯の根の末端部分には、脳神経の中で最大の三叉神経の終末(先端の細い神経)がある。
噛む筋肉(咬筋)を使って噛み合わせると、圧力が歯を介して神経に達する。
圧力が大きいほど脳に伝わる信号も大きくなる。
脳には骨格筋の緊張に関与する細胞がある。
「強い情報が伝われば骨格筋を動かそうという指令が発信されやすい」と石神教授。
逆に言うと。しっかり食べなかったり、噛む力が弱かったりすると、力を十分に発揮できるような情報が全身の筋肉に伝わらない、というわけだ。

かみ合わせ調整
力がうまく伝わらないと、身体のバランスにも影響する。
石神教授らは、モーグル選手を含めたスポーツ選手と一般人を対象に、噛み合わせとバランス感覚の実験を試みた。
バランスボードのような「重心動揺計」に立ってもらい、揺れ幅を計測した。
その結果、スポーツ選手の中には揺れ幅が小さく、バランス感覚に優れた人がいたが、かみ合わせが悪いと総じて体の揺れ幅は大きかった。
マウスピースを入れて噛み合わせを整えると、揺れ幅は小さくなった。
福島・猪苗代で09年にあった世界選手権でも調査。

代表選手の約9割にマウスピースを提供した。
何人かを選んで、口の周りと足の筋肉にセンサーをつけて試走してもらった。
空中を舞う 「エア」の際はかみしめておらず、コブ斜面を滑るときは断続的にかみしめていた。
筋肉の活動量を示す筋電図の波形は、左右の噛み合わせが悪い選手ほど、筋肉の活動バランスも左右で異なっていた。
マウスピースを使って噛み合わせのバランスを整えると、噛む力、活動バランスともほぼ均等になった
石神教授は「マウスピースはバランスを高める装置として有効だと考えることができる」と語る。

リラックス効果
かむ力で実際に競技力はアップするのだろうか。
98年の長野五輪スピードスケート男子500メートルで金メダルを獲得した清水宏保さんは、マウスピースを装着して世界記録を更新したことがある。
「確かにスタート時は力が入る。でも、力が必要なのはに2,3まで。その後は呼吸の方が大事になります。僕は最終的には(装着を)やめました」
競技にはそれぞれの特性がある。
重量挙げや野球のバットスイングのように短時間に凝縮した力が求められたり、サッカーやマラソンのように持久力が必要だったりする。
持久系の競技では酸素を取り込む「呼吸」が重要で、マウスピースはその妨げになりかねない。
ただ、清水さんはかむ効果を実感していた。試合直前までガムを噛むことでリラックスでき、喉の渇きも防いだという。
石神教授は「刺激が脳に伝わり、筋肉が動きやすい状態にある。リラックスしつつ、体はアイドリング状態にあると言えます」と解説する。
ソリ系競技でも効果がありそうだ。
例えばリュージュ。
遠心力で頭部がふられる「首とられ」現象が生じ、タイムロスや事故につながることがある。
かみしめることで頭部が安定し、予防効果が期待できると言う。
岩手医科大などの研究では、スタート時の腕の動きに合わせて口の周りの筋肉が収縮していた。
ここでも「かむ力」が関係していたとみられる。

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